念願だった武蔵小杉の串焼きの店「文福」で一杯飲んで、小杉センターロードを徘徊する。
新旧居酒屋が立ち並ぶ、このセンターロードを歩いていると、自分の知っている小杉に来ていると実感する。
なにもタワマンばかりに変わっちまった、と愚痴を言っているのではない。
僕は目立たず、日陰の通りで酒を飲むのが好きなだけだ。
一つの灰皿にたくさんの人が集まって、もくもくと煙を出している横を通り抜け「割烹こすぎ」の前に来た。
目の前には以前来た「くろちゃん」がある。
どちらにしようかな。
迷った時は、入ったことのない店へ。
店内をのぞき込むと、先客がけっこういるが、カウンター席が空いてそうなので、入店してみることに。
入店すると、片言の日本語で店員さんが迎えてくれる。
赤い町中華にあるようなカウンター席に腰を下ろす。
カウンターと厨房側に段差や仕切りがないので、すぐそこを店員さんが通るのが印象的だ。
目の前の短冊メニューの「ハムエッグ」の文字が目に飛び込んでくる。
ハムエッグという響きが、場末の大衆酒場感があっていいではないか。
手元の昔ながらのデザインのメニューには、細かい字でメニューがずらり。
かなり豊富なおつまみメニューだ。
そのラインナップもまた、シンプルな焼き物や一品料理など居酒屋メニューで、酒飲みの心をつかむ。
酒はビール、サワー、焼酎、ワインなど無難な感じ。
ここで地酒や本格焼酎のあの銘柄などと始める感じではないので、これでいいのだ。
串揚げのメニューもあるようだ。
5本で500円、1本100円とは安い。
おすすめドリンクが生レモンコークハイと書かれると、途端にジャンクに走りたい気分にもなる。
午後3時~8時までの定食メニューもある。
お酒だけでなく、ちょうど晩御飯の時間帯に、定食が食べられるようになっているんだ。
どのくらいのボリュームなのか分からないが、580円とは安い。(2020年9月時点)
とりあえず、レモンサワー(280円)。
赤いカウンターに透明なサワーにやけに清涼感を感じる。
付きだしにナッツ。
こういうちょっとした物でも、ないよりはうれしいものだ。
お通しというほどでなく、ちょこっと繋ぎにつまめればそれでいいのよ。
すでに出来上がっている酔客の喧騒を耳にしながら、レモンサワーを口に運ぶ。
いいよ、この雰囲気。
店員さんは、外国の方がほとんどのようだ。
片言の日本語と、酔客のがやがやとした話し声、笑い声。
小杉の場末の大衆酒場ってのはこうでなくちゃ。
続いて、目黒のさんま(280円)が焼きあがる。
ずいぶん焼けるのが早い。
秋ではないので、冷凍物なのかもしれないが、焼き立てのサンマは美味い。
サンマを食べると、秋がくるのが待ち遠しくなる。
薄い皮にすっと箸を押し込むと、ふっくらとした身が見えるのがうれしいではないか。
苦い肝まで美味いのがまた、酒飲みにとってはたまらない。
サンマだけってのもさみしいので、納豆オムレツ(380円)も注文。
思ったより大きい。食べきれるかな。
この納豆オムレツは、中に納豆が入っているのではなく、卵と納豆を混ぜたものが焼いてある。
食べた印象は、オムレツというよりも、納豆玉子焼きといった感じ。
シンプルな味わいだ。
納豆の粘りと、玉子焼きの硬さが絶妙。
つまみに対して酒が足りず、レモンサワーをもう1杯。
カウンター席の隣に、ワイシャツ姿のサラリーマンがやってきた。
よく見ると、仕事帰りらしく、ワイシャツやスーツ姿のサラリーマンの出入りが増えてきた。
グループで飲みに来るのではなく、もっぱら一人客が多い。
武蔵小杉に住んでセレブな生活は送っているものの、時にはおふくろの味のような家庭料理が食べたい。
妻の作るオードブルのようなものではなく、時にはシンプルなハムエッグやウインナーなんかで一杯やりたい。
小杉というブランド街へ住めて、妻の顔は立ち、金もステータスもそこそこに得ることができた。
でも、心のどこかで、こういう大衆酒場の味を身体が求めている。
ネクタイを緩めて、焼き魚なんぞをつまみに、瓶ビールを傾ける時、それが本当の自分なのではないだろうか。
そんな一物を心に抱えつつも、今の生活スタイルを維持するために、身を粉にして働くサラリーマン。
そんなサラリーマンたちが、この店には集うのだろうか。
根も葉もない邪推をしながら飲む酒が、いつだって美味いのだ。
レモンサワーを飲み干し、ごちそうさまでした。
会計は1,620円。
さて、このまま帰っても中途半端に腹が減りそうだ。
〆に何か食べて帰るか。
2020年09月訪問
割烹 こすぎ
神奈川県川崎市中原区小杉町3-430-1
https://tabelog.com/kanagawa/A1405/A140504/14015863/
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