仕事の用件があり、二子玉川に向かった。
二子玉川(以下、二子玉)では、会社帰りに途中下車して飲んだりするが、平日の昼間に来ることは滅多にない。
駅を降りたのは12時台、ランチタイムだったせいか、休日並みに人がいる。
腹が減っていたが、先に用事を済ませることに。
駅から離れて、二子玉の街を歩いていると、昔ながらの自転車屋さんや和菓子屋さんが並ぶ。
駅前はきれいに開発され、セレブな感じ、上品な感じ、グローバルな感じもするが、少し離れれば、そこには昔ながらの街並みが広がる。
高級ブランド店などが並ぶ割には、その裏には昔からの店が並ぶ。
僕はこの二子玉の二面性が好きで、たまに二子玉で飲みたくなる。
所用を済ませると13時半を過ぎていた。
ランチタイムが終わる前にどこかに入らなければ、と歩き回っていると「つばめ」の赤い暖簾が目に入る。
そういえばここ…
あることは知っていたが、店が開いているのを初めて見た気がする。
食べログで「町中華 二子玉」で出てくる、この店には一度入ってみたかった。
たしか夜は閉まっていたはず。
軽く居酒屋で飲んで、ここで〆るというコースを考えていたが、夜に開いているのを見たためしがない。
これはチャンス。
店先には、本日の日替わりメニューの看板がある。
麺類が中心で、炒め物がちらほら。
タンメンかサンマーメンで迷うところだが、とりあえず入ってみよう。
店内へ入ろうとすると、自動ドアが壊れていて、強引に手動で押し開ける。
手動で途中まで開けると、後は自動で開く。
何とも中途半端な壊れ方をしたものだ。
昼時を少し過ぎたせいか、店内には空席もちらほら。
心なしか現場作業をしている作業着を着た方が目立つ。
入口付近できょろきょろしていると、「ご自由に空いている席にお座りください」とおばちゃんに声をかけられる。
一番奥のほう、2人テーブル席のシートに腰を掛ける。
隣の4人テーブルには、パリッとした高そうなスーツに身をつつみ、高そうな時計をした3人組の男たち。
金融か不動産関係だろうか。
身なりはいいが、こういう町中華で昼飯ってのには好感が持てる。
身なりと味覚は一致しないものだ。
座ったシートとテーブルはかなり年季が入っているようで、この店の古さを感じる。
二子玉には20年以上前からよく来ていたけど、ここは何年前からあるのだろうか。
卓上にはメニューがなく、壁に掛けられている日替わりメニューを再度確認。
隣の3人組は、タンメンのセットと味噌ラーメンのセットのようだ。
眼球だけを動かし、隣の席で食べているセットのご飯もの、ガーリックチャーハンと天津飯に目を配る。
タンメンでもサンマーメンでもどちらでも良い気分だが、問題はセットのご飯ものだ。
迷うところだが、見た感じチャーハンより天津飯に目を引かれる。
ということで、サンマーメンと天津飯のセット(880円)を注文。
二子玉にあって、1000円を切るランチセットは安い。
厨房では中華鍋を振るうガコガコという音と、油で炒められる肉と野菜の音がする。
年配のお父さんが「次、野菜炒めいくよ!」などひっきりなしに声のバトンをおばちゃんに渡している。
客は静かだが、店内に厨房の活気が広がっている。
待つこと数分でサンマーメンが先に来る。
何分経ったか計っていないが、体感としてはかなり早い。
天津飯はあとからできるとのこと。
丼には、もやし、細切りの人参、きくらげ、にらが入った餡が浮かぶ。
サンマーメンを食べるのは久しぶりだ。
熱々の餡で蓋をされ、熱々のままなかなか冷めないのがサンマーメンの好きなところ。
ただし、慌てて食べると火傷する。
その危うさがいい。
大体の味の予想はつくので、麺をすくい上げいきなりすする。
まずはスープから、とかどうでもいい。
好きなように、美味しく残さず食べればそれが一番だ。
麺は細麺で少々硬め。
熱々の餡で伸びないように考慮されているのだろうか。
餡が絡んだ熱々を一気にすすると、予想通り上顎を火傷したように感じた。
だが、それを踏まえて美味い。
スープは醤油ベースの町中華の味で、予想通りの美味しさ。
驚きや発見はないが、こういう美味しさはほっとする。
どこで食べてもサンマーメンはサンマーメンだ。
味が濃いか若干薄いか、僕にはその程度しか分からない。
熱々で美味しければそれでいい。
こういう味が飽きないのだ。
何口か食べて、コショウをバシがけする。
僕はサンマーメンには、これでもかってほどコショウをかけて、ピリッとしたアクセントを付けるのが好きだ。
シンプルで飽きの来ない、素朴な醤油味のスープにコショウの辛みがよく合う。
コショウが一番合うのは、やはり醤油味のスープだ。
サンマーメンをすすっていると、そこに遅れて天津飯を乗せたお盆を持って、おばちゃんがやってくる。
天津飯といえば、チャーハンのような半円をイメージしていたが、これは違う。
白米の上に平べったく焼いた黄色い玉子焼き、かにかまの赤白、分葱の緑。
その上に茶色の中華餡がかかっている。
なんとも彩が良いではないか。こんな天津飯は初めて見た。
ある意味ちょっと雑な感じが何とも良い感じだ。
厨房で、ざっざっと手際良く作られたことが想像できる。
これにてサンマーメンセットが完成だ。
こう並べてみると、ボリューム感もばっちり。
2回目になるが、これで880円は安いぞ。
しかもここは世田谷区の二子玉川だ。
熱いうちに天津飯も口に入れる。
ひと口食べて驚いた。
驚くほどに甘いのである。
あまり天津飯を好んで注文しないが、餃子の王将でジャストサイズは食べたことがある。
甘酸っぱいイメージだったが、これはかなり甘い。
ケチャップを予めフライパンで熱して、チキンライスを作ると酸味が抜けて甘くなる。
あの甘さだ。
予想しない甘さに、一瞬脳が面食らうような感覚になる。
辛いのもびっくりするが、予想以上に甘いのもビビる。
この甘い天津飯を口に入れ、コショウの効いた熱々のサンマーメンをすする。
なるほど。この甘みと塩味の組み合わせか。
余計な会話はせず、一心不乱に目の前の麺と飯の消化に集中する。
だから一人飯はいい。僕は食べている最中に、箸を止めて話をするのが苦手だ。
店の中は、一瞬空いたかと思うと、すぐに入れ替わりでお客が入ってくる。
食べ終わり、店の外を見ると、もう14時も近いのに待っているお客もいる。
二子玉の駅前の雰囲気から、こんな町中華があることは予想できないだろう
それこそ色々な飲食店はあるが、結局はこういうお店が落ち着くんだ。
お会計をして店を出ると、中年の奥様同士といった3人グループが待っている。
ブランド物のバッグを持ち、なかなか良い身なりだ。
だが結局、GUのトレーナーを着て、無印良品のパンツを履いている僕と同じものを食う。
人間の本質は変わらない。
2024年01月訪問
つばめ
東京都世田谷区玉川3-11-6
https://tabelog.com/tokyo/A1317/A131708/13066434/