初めて川崎北部市場で朝飲みしてから約1か月。
味をしめた僕は、川崎市バスに乗ってまた北部市場にやってきた。
北部市場へは車でしか来たことなかったが、バスで来れることを知った以上、朝飲みのハードルが下がった。
電車で飲みに行くより、若干面倒臭さはまだあるものの、駅周辺で飲むのに、少し飽きてきた部分もあったので、こういう飲みもちょうどいい。
今回は北部市場前ではなく、少し手前のバス停で降りて、徒歩で市場まで行く。
尻手黒川道路沿いに、僕の足で8分程度。
北部市場の看板が見えるとテンションが上がってくる。
市場入り口の坂を登り、守衛室の脇を通り抜けて、市場の中へ入ってゆく。
面白いことに、市場の中には床屋、診療所、ATMなども揃っている。
市場で働く方々は、ここで長い時間を過ごすのだろう。
今日はまっすぐ3階の食堂街へ直行する。
今回は寿司屋で飲もうと最初から決めてきた。
3階まで階段を登り、迷わず寿司屋の前にくる。
迷いなく「鮨あらい」の暖簾の前へ。
店内は見えないので、若干の緊張感を感じる。
店先のメニューは、丼物と握りのセットなど。
刺身なんかをつまんで、ちょっと飲んでから寿司にしたいが、それが叶うかどうかは入らないと分からない。
チェーン店以外の寿司屋は、連れて行ってもらったことはあっても、自分一人で入ったことはない。
これが街の寿司屋だったら、入るのに躊躇するところだが、なぜか市場だとハードルが下がったように感じる。
街の個人経営の寿司屋と何が違うのだろうか。
市場という開かれた場所にある食堂街の、ひとつの選択肢としての寿司屋、というところが入りやすさなのかもしれない。
ここの大将は有名な寿司屋で修行をされた方らしい。
市場の価格でご提供、という言葉に惹かれる。
後から来たご夫婦が店内に入っていったので、その流れで僕も店内についてゆく。
店内はネタの見えるカウンター席と、テーブル席。
入ってすぐ着席する前に、カウンター越しに大将に撮影許可を取ると「がんばります!」とのお返事をいただく。
店内での動画撮影が、行儀良いかと言えばそうではないことは承知のうえだが、こう返してくれると、気持ちがいいものだ。
たまたま空いていたので、一人だったがテーブル席に通してもらう。
酒はビール、サワー、ハイボール、焼酎など一通りある。
数は少ないが寿司を楽しむうえで、酒の種類は必要ない。
手元にメニューがあるわけではないので、店内のメニューを見回す。
刺身の盛り合わせなど、一品料理などはメニューにないようだけど、注文できるのだろうか。
まずは瓶ビール(500円)。
回転寿司では生ビールだが、ここはグラスに注ぐ所作も含めて、ゆっくりと楽しみたい。
グラスのサイズも小さいのがいい。
グラスにビールを注ぎ、飲み込むと少し緊張が和らいできた。
いきなり寿司にはいかず、刺身の盛り合わせで一杯やりたい。
大将に、刺身はできるかと確認すると、できるとのことで、まずは刺身をお願いする。
好みを聞かれたが、パッと出てこないので、すべて大将のおすすめで。
シマアジ、まぐろの中トロと大トロ、ボイルいかを炙ったもの、赤貝、数の子、クジラ、炙った太刀魚。
朝からすごく豪勢な刺し盛だ。がんばるどころの話ではない。
何から食べようか迷うところを、まずは赤貝から。
わさびをちょいとつけていただく。
コリコリとした食感に、磯の香りがぷーんと広がる。
赤貝にはクセになる美味さがある。
続いてボイルされたイカをいただく。
歯ごたえよく、甘いたれがよく合う。
ちょっと炙ってあるので、焼きいかの香りも楽しめて、これは早々に日本酒が欲しくなる。
刺身の盛り合わせに、数の子が入っているのは初めてだ。
数の子は正月のおせち以外で食べることはほぼないし、数の子食べたい、と思うこともない。
なのに、ここで食べる数の子はやけに美味しく感じた。
シマアジも脂が乗っていて美味い。
早々に瓶ビールを空にして、日本酒に切り替えよう。
日本酒 白壁蔵(800円)を冷やで。
置いてある日本酒は、この白壁蔵という銘柄のみらしい。
外で飲むのに銘柄はなんでもいい。
美味い肴と、場の雰囲気があれば酒はなんでも旨い。
朝から刺身で、冷たい酒をキュッとやる。
窓から外を見れば昼前の日差しが、屋上の駐車場を照らしている。
明るいうちから酒を飲む、贅沢感を感じながら飲む酒はやはり旨い。
これが休日だ。
マグロは、中トロと大トロかと思ったのだが、よく考えてみると、赤身と中トロだったかもしれない。
両方とも脂が乗っていて、とろりと口の中で溶けるので、大だか中だか分からなかった。
どちらも美味すぎて、僕の拙い経験からすると、まぐろという概念を超えているように感じた。
魚というより、海の牛肉だ。
さて、そろそろ寿司を食べよう。
と思ったが、メニューを見回しても、店内のどこにも握り単品のメニューがない。
大将に聞いてみると、カウンターにあるネタを見て決めるらしい。
立ち上がって、カウンターのネタを一通り確認する。
ここでもよくわからないので、今日のおすすめを言われるがままに、5貫握ってもらう。
唯一自分で選んだのは、平目と中トロ。
パンッと大きな何かを平手打ちするような音がして、寿司がやってくる。
粗相をした小僧を平手打ちしたわけではなく、トリ貝を叩いた音のようだ。
少しびっくりした。
中トロ、平目、シマアジ、穴子、トリ貝。
叩かれて、ひらひらと動くトリ貝から。
トリ貝は食べた記憶がないが、磯の香りが強く、赤貝ともまた違った美味さがある。
この磯の香りに日本酒の旨味がよく合う。
白壁蔵をもう1本。
中トロの寿司をみて、先ほどの刺しが入った刺身が大トロだと確信した。
中トロも大トロも、脂身があるのに、全然くどくない。
トロっと酢飯とともに口の中で、溶けていく。
これか、これが美味いマグロなのか。
朝からこの握りは贅沢極まりない。
平目の淡白な味わいに、日本酒がまたよく合う。
これは最高だ。
寿司を平らげ、もうまだ酒があるので、梅水晶(400円)を注文。
居酒屋でよく出てくる梅水晶よりも、少し梅の酸味が強く、手作り感を感じる。
寿司を食べた後に、このキュッとくる酸味がいい。
サメの軟骨が、いつも食べる物よりも、少しきめ細かいような気がした。
これもこの店で作っているのだろうか。
あともう少しだけ食べたかったので、あおりいか、たまごを追加。
たまご焼きは、うずらの卵が真ん中に入っている。
凝ってるなあ。
あおりいかの身があまりにきれいで、手に持ってその表面の光沢感を眺めてしまう。
この手に持った時のサイズ感もちょうどいい。
口に入れて噛むと、ねっとりと歯に練り込んでくるような食感に、いかの甘みが口に広がる。
そこに酢飯のほんのりと甘い酸味が加わり、お寿司の美味しさに、思わず一人で頷いてしまう。
これは熱燗でもよかったか。
玉子焼きは、子供が喜びそうなあまーい味付け。
最後の最後に口がさっぱりとする。
昼近くなり、カウンター席に予約していたグループが入ってきた。
予約の電話も鳴っていたので、昼には混んでくるのだろう。
一人でテーブル席を陣取っているのも悪い気がするので、玉子焼きを平らげ、ごちそうさまでした。
会計は5,300円。
これだけ飲んで食べて、こんな値段?
回らない寿司屋はもっと高いもの、と思っていたが、これが市場の価格なのだろう。
今度はカウンターで、寿司ネタを眺めながら、飲むのも良さそうだ。
2023年05月訪問
鮨 あらい
神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1 川崎北部市場食堂街 3F
https://tabelog.com/kanagawa/A1405/A140507/14071915/
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