チネチッタ川崎あたりを、酔った状態でうろうろして、次の店を探していた。
チネチッタは未だに買い物をするところなのか、それとも映画やライブを楽しむところなのか、自分の中でよく分からない位置づけである。
一度だけライブに来たことがあった。
かなり前の話だけど、酒を飲んでノリノリで行こうと思ったら、飲んだせいでライブ中にトイレに行きたくなり、ノリノリどころか動いたら出ちゃいそうな、苦しい思い出がある。
映画でもライブでもそうだが、景気づけに一杯やってから行くと、大体トイレ地獄に陥る。
分かってはいても大体繰り返す。
そんな思い出にふけりながら、酒の飲めそうな店を探す。
オープンカフェのようなおしゃれなところも良いけど、せっかくならこじんまりとした店に入りたい。
チネチッタから脇道に逸れようかというところに「けむり」という店が目に入る。
なんとなく店名のデザインに心惹かれるものがある。
表の看板に、焼鳥なんかがあり、ちょい呑み1000円が目に止まる。
炭火焼きの串で一杯なんて良さそうじゃないか。
OPENとなっているので、扉を押して入ってみる。
昼時をずらしたせいか、店内には先客おらず。
立ち飲みのカウンターがありワイングラスがぶら下がる、スタンディングバーのような雰囲気。
BGMはヒップホップの重低音が響き渡る。
おしゃれでイケイケな雰囲気の店内だ。
一瞬自分が入るべき場所ではないように思えて、踵を返そうかと思ったら、店の奥の方から男性の店員さんが出てきた。
朴訥な感じで笑顔がないので、少し緊張感が走る。
しかしもう後戻りはできない。
一人であることを伝えて、奥の方の腰を掛けられる席へ座り、メニューに目を通す。
ちょい呑みセットを注文するつもりだが、なぜか一応悩んでいるふりをする。
緊張の証だ。
メニューは店の雰囲気とは打って変わり、焼き鳥などの串焼きがメインだ。
店名が「けむり」ってそういうことか、なぞと分かり切ったことを頭の中で反芻してみる。
バーのようでいて、七輪焼きも楽しめるらしい。
メニューを見ているうちに、ここが安全地帯だと認識し始める。
ちょい呑みセット(1000円)のハイボール。
とりあえずハイボールで緊張をほぐしていこう。
追って本日の小鉢、里芋の煮物をすっと出てくる。
里芋の煮物にねぎが乗っているのは初めてだが、湯気が上がるそれはやけに美味そう。
この雰囲気に煮物が場違いのように思えたが、一口頬張ると優しい味付けで美味い。
予想外の美味さにほっこりする。
まさかここで里芋の煮物の小鉢が出てくるとは。
ヒップホップ系のBGMとはアンマッチだが、またそれが良いのかもしれない。
予想に反して小鉢が美味いのがうれしくなってくる。
ハイボールだけではさすがに足りず、生ビール(500円)を追加。
ジョッキまでキンキンに冷えた生ビールだ。
正面にはちょうど店員さんが焼き物を焼いている姿がある。
眺めていると店員さんと一瞬目が合い、少し気まずい感じになる。
なんというか一対一、会話も会釈もないと緊張感が走るのだ。
生ビールを口に運んでいると、串焼きのいい香りが漂ってくる。
ちょい呑みセットのおすすめの串2本だ。
ももとぼんじりだろうか。
皿の脇には練りからしが付いている。
小ぶりの串焼きにかぶり付くと、熱々で肉汁ジューシー。
これは美味い。
一人しか客がいないので、少々緊張感が走ったが、ここは美味しくて良い店だ。
テーブルの木の肌触りも良いし、料理も美味いし、勝手に身構えてしまった。
会計は1,650円
会計の際に、ちょっと朴訥としたイメージの店員さんは、普通に笑顔で良い人だった。
なんだ、緊張して損した。
自分の中で誤解が解けたようで、晴れ晴れとした気分で店を後にした。
2021年04月訪問
けむり
神奈川県川崎市川崎区小川町3-3
https://tabelog.com/kanagawa/A1405/A140501/14009557/
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