酒を飲みに行く、というとたいていの人は居酒屋を真っ先に思い浮かべるだろう。
僕もそうだ。
しかし飲み歩きをしていると、居酒屋ばかり回るのもおもしろ味がないな、と思うことがある。
どこか居酒屋以外で飲んでみたい、シチュエーションを変えて飲んでみたい、そう思うのだ。
焼鳥屋で軽く飲んで、次の店を探すべく、溝の口南口を徘徊していると「定食たちばなラーメン」の看板が目に飛び込んできた。
店に近づくと、おすすめセットメニューに、実に美味そうな写真が添えられている。
初めて知った店のように書いたが、この「たちばな」は南口を徘徊している時に、毎回気になっていた。
特にこの美味そうなハンバーグやカツの写真。
少し酒が入った時でないと入らないだろう、この店は。
ということで、今夜は定食飲みを決行してみることにした。
店内は小さなテーブル席とカウンター。
一人で定食を食べているサラリーマン風の男性が数名。
年配の女性の店員さんが冷たいお水を持ってきてくれる。
店内は昔ながらの定食屋といった感じ。
溝の口南口にはあまり降りないので、いつの頃からある店なのか分からないが、古くからある定食屋なのだろう。
雰囲気からいって、家庭的な定食が出てくることが容易に想像できる。
置かれているメニューを見ると、定食だけでなく、おつまみメニューもちゃんとある。
酒は日本酒と瓶ビールのみ。まあ、そんなもんだろう。
定食屋なのだから。
サービスメニューという名の定食はA~Fの6種類。
ラーメンとチャーハン、かつ丼のセットもある。
とにかくどれもサービスメニューのようだ。
カウンターの上にもメニューが貼られている。
チャーシューメンやチャーハン単品もあるようだ。
まずはビール中瓶(590円)。
小瓶でもなく大瓶でもなく中瓶がいい。
お冷のコップでビールを飲みつつ、しばしテレビの音を聞く。
2人で来ている客はすでに飲んで来たのか、やけに大きな声で笑っている。
楽しそうで何よりだ。
カウンターに並ぶ他の客を見ると、僕よりも若干年上に見える方が多いようだ。
(40代になると、そう見えても実は年下だったりして年齢が分からないことが多い)
ワイシャツにスーツといったいかにも会社帰りのサラリーマン。
しばし待つと、Cセット(890円)が到着。
ハンバーグとハムエッグの定食だ。
ファミレスでもなく、ハンバーグ専門店でもない、定食屋のハンバーグだ。
何度も見たあの写真のハンバーグを、ついに実食する時が来たのだ。
割りばしを割って、ハンバーグに箸を差し込んでみると、すっと箸が入っていくほど柔らかい。
口に入れると、甘辛いソースにとろけるハンバーグ。
すかさずそこにほかほかのごはんを頬張る。
これだこれだ。定食屋のハンバーグ定食を食べるこの感覚。
昼はカップラーメンかコンビニ弁当の僕が、忘れていたこの感覚。
何気ない黄色い沢庵すら特別に美味く感じる。
そもそも沢庵で飯を食う、という感覚すら忘れかけていた。
子供の頃、この甘い黄色い沢庵でごはんを食べるのが好きだった。
調味料はソース、しょうゆ、一味など。
目玉焼きにかけようかと思ったが、ハンバーグソースで充分だろう。
目玉焼きの黄身を潰して、ハンバーグを食べる。
そしてご飯を頬張る。その繰り返し。
シンプルなハムエッグもまた美味い。
そういえばビールがあったんだと、思い出したようにビールを飲む。
定食を前にすると、ビールが脇役になってくる。
大きなお椀に入った豚汁も熱いうちに飲まないと。
豚汁は限りなく味噌汁に近くあっさりとした味付け。
家で作ってもらう豚汁とはまた違った味だ。これはこれで美味い。
この大きなお椀がまたいいね。
ハムでサラダを巻いて食べ、ハンバーグを口に入れてご飯を食べる。
そこに追っかけるように豚汁を飲む。
夢中になって完食すると、腹がパンパンになっていた。
気が付くとコップに入ったビールが少しだけ残っている。
少しぬるくなったビールを飲み干し、ごちそうさまでした。
定食屋で一杯飲もうと思ったが、完全に定食にペースを持っていかれた。
瓶ビールとCセットで会計1,480円。
こういう家庭的な味に惹かれて、中年サラリーマンが訪れるんだろうな、
なんて隣のお客の顔を見ながら思った。
男は知らず知らずのうちに、母性のもとに集まる生き物なのだ。
2020年9月訪問
たちばな
神奈川県川崎市高津区溝口2-3-7
https://tabelog.com/kanagawa/A1405/A140505/14015431/
<この記事の動画はこちら>
https://youtu.be/LpvvOX2ae6w