川崎北部市場には、ごくたまに車で食材を買いに来ることがあるが、いつも運転があるので、ここで酒を飲んだことがなかった。
3階にある食堂街を見て回り、ここで一度飲んでみたい、と思うこと数年間。
ついに、朝から北部市場で酒を飲む、というプランを実行に移すことになった。
田園都市線の宮前平駅から川崎市バスに乗り、北部市場前で下車。
あまり本数が出ていないので、よく調べていく必要がある。
これは帰りに知ったことだが、少し歩いて、蔵敷というバス停から、溝の口駅行きに乗れば、溝の口までバスで行けるとのこと。行きもまた同様に来た方が、バスの本数は圧倒的に多いようだ。
運転しないで一人で来る北部市場は新鮮だ。
いつもは買い物で来るここで、ついに念願の酒が飲めるのだ。
わくわくしすぎて、下半身にきゅぅっとこそばゆい感覚が押し寄せる。
食堂街に入る前に、どんなお店があるのかチェック。
市場だけあって、海鮮の天ぷらや寿司などが美味しそうだ。
店をチェックし、いったん市場内の散策する。
一応来たからには、市場の雰囲気と匂いを味わったうえで、最後に酒にたどり着きたいではないか。
一通り、市場の魚介や肉などを見て回り、満を持して3階の食堂街へ。
3階へ上がると、左右に飲食店が広がる。
右に行こうか、左に行こうか。
初めて食堂街で食べるので、まずはひと通り見て回ろう。
店によっては、名前を書いて待つような人気店もあるようだ。
中華食堂があったように記憶していたけど、あの店はなくなってしまったのだろうか。
ひと通りチェックして、今日は「キッチン シェット」に決める。
このレトロな感じの看板が良いではないか。
店先には、店内が覗けないほどに、黄色い短冊メニューが貼ってある。
本日のおすすめも2ヶ所に貼ってあり、店先を見ているだけでも期待度が上がる。
短冊メニューを見ている限り、海鮮系のメニューが多いようだ。
しかし、写真付きのメニューには、ハンバーグやカレー、とんかつ、ナポリタンなどの洋食もある。
これは、海鮮系とどちらの路線で攻めるか迷うぞ。
その下には、レトロな食品サンプルがあり、目が引き寄せられる。
ここまで見る限り、洋食メニューにした方が良いような気もしてくる。
実に悩ましい。
写真付きメニューが貼ってある、小窓から店内を覗くと、お客は入っているが空席はありそうだ。
とりあえず、入ってから様子をうかがって決めようか。
どうも、食堂街に人が流れてきたように思う。
店内は想像よりも客が多く、入れ違いに運よく窓際のテーブル席が空き、そこに案内してもらえた。
あそこに座りたい、と思っていた席に案内されると気分がいい。
周りを見ると、飲んでいる人よりも、買い物の帰りに朝食を楽しんでいる人の方が多いようだ。
同志はいないかと、ギョロギョロと眼球を動かすと、ジョッキでレモンサワーのような液体を、美味しそうに飲んでいる女性の一人客の姿が目に止まる。
それでいい。
そう思った。
店内の短冊メニューを眺めると、何を頼んだら良いか分からなくなってきて、少し混乱する。
市場だから刺身系が良いのか、でもハンバーグとか洋食も美味しそうだし。
入る前に感じていた迷いが、切羽詰まった形で目の前に具現化されてゆく。
とりあえず、ビール中瓶(600円)を注文して場を濁す。
お新香が突き出しについてくるのがうれしい。
朝から瓶ビールを傾け、グラスに注ぐ所作に、禁断の歓びを感じる。
今日という休日の、終わりの始まりである。
空きっ腹に流しこむ休日のビールは格別に旨い。
仕事終わりに飲むそれとは、また違った美味しさがある。
ひと口ビールを飲んで、冷静にメニューを確認する。
冷奴や山かけなどの単品があるようだが、あとは丼物と定食オンリーのようだ。
いきなりご飯か…
と思い、店員さんに単品メニューが他にないか聞いてみると、定食は単品にもできるとのこと。
それならいいじゃん。
それを聞いて、今日はここで飲めることを確信した。
本日のおすすめ、お刺身3品盛りを注文。
値段は1,100円となっていたが、単品にした場合、いくらなのか分からない。
後で計算してみたら、100円引き程度なのではないかと思われる。
まぐろ、天然ぶり、生海老の3点だ。
この厚みがいい。これぞ市場の刺身だ。
分厚いまぐろから、わさびを付けていただく。
トロっとして、見た感じ、すじがあるのかなと思ったら、すじも引っかからず柔らかい。
美味い!さすが市場。
まぐろをひと口食べただけで、市場で食べている感じが一気に押し寄せる。
朝から刺身をあてに、瓶ビールを傾ける贅沢さよ。
漁港で食べた朝ごはんを思い出す。
たしかに、この分厚い刺身で、熱々のごはんを食べたら美味しいだろうな。
これは酒も良いが、白米も絶対に合うはずだ。
刺身ときたら、お酒熱燗(330円)。
日本酒1合330円とは、なんとも良心価格ではないか。
熱い大関の瓶の口を持ち、おちょこに酒を注ぐ。
後は野となれ山となれ。
熱燗を飲んだら、本当にそっち側にいってしまう。
分厚い天然ぶりも、脂が乗っていて美味く、熱い辛口の日本酒がよく合う。
ぶりの脂の旨味のあと、すっと熱い酒がそれを溶かし洗い流す。
朝から熱い酒が五臓六腑にしみ渡る。
生海老がまた甘くて美味かった。
生の海老なんて滅多に食べることはないので、贅沢な極まりない。
海老の味噌をチューチューしようかと思ったが、海老の頭が固すぎて上手く吸い出せなかった。
刺身3点を堪能し、もう少し飲みたいので、太刀魚を焼きで注文。
こちらも定食ではなく単品で。
定食だと1,000円だった。
湯気が立ち上る太刀魚に箸を入れると、スフッと箸が身の中に入ってゆく。
箸でつかんだだけでもわかる、ふんわりとした身の柔らかさ。
太刀魚の凶暴な見た目と相まって、非常にふわふわで美味しい身だ。
太刀魚ってこんなに美味しかったんだ。
せっかくなので、大関をもう1本お替わり。
毎回せっかくなので、と酒を飲むが、何がせっかくなのか、もはや分からない。
ふわふわの白身魚はそのままでも十分に美味いが、大根おろしと醤油をちびちびと足して食べる。
これもこれで美味い。
焼き魚に熱燗なんて、最高の朝飯じゃないか。
時計を見ると、まだ昼前だ。
周りを見ていると、混んでいる時は席が埋まるのだが、すっとお客が引いて空いたりする。
朝食を食べて長居することなく、すっと帰っていく。
中高年のご夫婦が多いように感じた。
酒を飲んでいる自分だけを置いて、店の中の人と時間だけが入れ替わってゆく。
僕の時間だけがそこで止まっているような、そんな感覚が心地いい。
太刀魚の身を余すところなく平らげ、酒を飲み干し、ごちそうさまでした。
会計は3,160円。
胃袋が2つあれば、ハンバーグなんかも食べてみたいけど、それはまた今度。
カレーライスも食べてみたい。
2023年04月訪問
シェット
神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1 川崎市中央卸売市場北部市場 関連棟3F食堂街
https://tabelog.com/kanagawa/A1405/A140507/14024729/
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