焼鳥屋で一杯飲んで、その足でもう一軒。
〆にしてはまだ早いし、このまま終わっちまうのももったいない。
結婚して子供が出来てからというもの、お金もそうだが、自由に飲み歩く時間に対して妙にみみっちくなってきた。
飲める時に行ける店へ可能な限り行ってやろう、そんな気分になることが多い。
時は金なり、ならぬ時は酒なりだ。
雨の中、酒場を探しながら視線を動かしていると、ふと気になっていた蕎麦屋の存在を思い出した。
店頭にはレトロな食品サンプルがおかれ、店構えも昭和を思わせる佇まい。
たまに車で通りかかる時に、気になっていた蕎麦屋だ。
こういう時にしか入らないであろう、ということで酔いに任せて暖簾をくぐる。
店内には誰もおらず、一瞬閉店しているのかと思ったら、奥からおばあさんが出てきた。
厨房の方には男性が一人、親子で切り盛りしているのかな?
店構えから予測は付いたが、店内もまさにそのまま。
壁にある古時計といい、内装といい、ここだけ時間が止まっているかのような空間だ。
窓際のカウンターに腰を下ろすと、傘がボロボロになった電球が目に入る。
深く息を吸い込むと、先ほどから感じていた店の中の匂い。
古く懐かしい、おばあちゃんちを思い出すような香りがする。
店内は自分ひとりのせいか、やけにテレビの声だけが店内にこだましている。
客は僕ひとりなので、早めに何か頼まないと。
自分だけのために待っていてくれると思うと、途端に焦ってくる。
窓ガラスに貼られたメニューを見ると、丼物のメニュー。
おつまみと酒のメニューをみると、一品料理もけっこうあるようだ。
値段から言って、一皿が多そうだな。
定食もあるようだ。
とんかつからしょうが焼きまで、かなり幅広い。
この辺に務めている人が昼飯に来そうだ。
そばのメニューも色々ある。
そばの間に見逃しそうなうどんメニューもある。
なにわともあれ、まずは酒だ。
日本酒(570円)を注文。付き出しで枝豆がついてくる。
居酒屋だとお通しだが、中華、定食、蕎麦屋なんかは無料の突き出しで付いてくるのがいい。
そして、蕎麦屋で飲むといったら板わさ(450円)だ。
蕎麦屋で飲むというシチュエーションが板わさを選ばせる。
僕は特にかまぼこが大好物というわけではないが、これはもう雰囲気というもの。
まずは一杯。
お猪口に入れて飲むと、けっこう辛口の酒だ。これはなんという銘柄なのだろう。
気にはなるが、いちいち聞くのも野暮ってもんだ。
日本酒と書いてあれば、それは日本酒なのだ。
辛口の日本酒で、わさびに付けたかまぼこを食べる。
かまぼこは厚切りで、ぷりっとした食感がいい。
特に期待していなかったが、わさびが美味い。
わさびをちびちび舐めながら、日本酒を飲んでみたら、これが意外といけた。
せっかく来たので、鶏の唐揚げ(550円)も追加。
唐揚げにはちゃんとサラダまで付いてくる。こういう気配りがうれしい。
唐揚げはいたって普通。
ニンニクとか生姜ががっつり効いているわけでなく、あっさりした味付けだ。
日本酒を飲み干し、唐揚げなのでハイボール(500円)を追加。
こちらのハイボール、一口飲んでびっくり。
ほぼ炭酸を感じない、新しいタイプのハイボール。
僕はこの経験を過去にもしたのだが、たまにペットボトルの炭酸水で作っている店で、こういうことがあるのだ。
だが、これもここのハイボールなのだ。炭酸がゼロではない、超微炭酸というだけ。
おばあさんがせっかく作ってくれたハイボール、これはこれでいいじゃないか。
たぶん、おばあさんはハイボール飲んだことないんだと思う。
思った以上に唐揚げがボリュームあって満腹感に襲われる。
後から入ってきた一人客は馴染み客のようで、焼き魚で飲んでいる。
今さらだが、その手もあったか、と少し悔しくなる。
蕎麦屋に来て、唐揚げでお腹が膨れた自分に少し腹が立った。
唐揚げをたいらげ、会計2,130円。
もり蕎麦で〆ようか迷ったが、酒と時間にみみっちい僕は、〆は別の店へ行こうと決めたのだった。
ごちそうさました。
2020年7月訪問
大塚や
神奈川県川崎市高津区下作延1-2-18 1F
https://tabelog.com/kanagawa/A1405/A140505/14019381/
<この記事の動画はこちら>
https://youtu.be/wHrWNkDLfwU